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『年収は「住むところ」で決まる - 雇用とイノベーションの都市経済学』読了

エンリコ・モレッティ 著、池村 千秋 訳

論じられている点が「分厚い」一冊。そして「そうだよね!」と飛びつきたくなるような話と「いや待てよ…」と疑いたくなる話と、両者がたくさん詰まっています。

例えば…

・中国の工場の強いみは安さではなくスピード。機械ではなく人が作業をしているから、一夜にして生産計画やデザインの変更をおこなえる。

・製造業は機械を中心とした産業であるがゆえにアウトソースしやすい。イノベーション産業(が何を意味するかは定義次第だが)は人的資産額大きいがゆえ場所に根付く。

・製造業が先進国の仲間入りの牽引役となり、その後廃れていくのは定番(日本に限らない。と言うか日本よりもドイツやアメリカの方が製造業への依存度も高かったし、その凋落ぶりも高い)

・社会・経済階層ごとに別々の町に住むようになるにつれて、自分と似たような同質的な人だけに囲まれて育つ人が増えている。そういう人は自分と異なる考え方に触れる機会が乏しく(均一性が高くなりがち)、極端な考え方をいだきやすい。

イノベーション産業はその企業が直接生み出す雇用の5倍の雇用を生み出す宝物(製造業よりも高級取りで地域サービス業へと費やすお金も大きい)

・「出身の町や村に強い結びつきを感じていますか?」という問いに、「まったく感じていない」「あまり感じていない」と答えた人の割合は、国民の平均的教育レベルが高いフィンランドデンマーク、オランダで高く、平均的教育レベルが低いスペインやポルトガルで低い。

イノベーションの世界では、人件費やオフィス賃料以上に生産性と創造性が重要な意味をもつ(イノベーション産業の集積効果の3つの要素)

「厚みのある労働市場」 高度な技能を持った働き手が大勢いる

「多くの専門サービス業者の存在」 得意分野に特化できる環境

「知識の伝播」 距離が離れる(40キロを越す)と知識伝播力は格段に落ち、160キロを越すと完全に消える)。

・大卒者が集まるイノベーション・ハブ都市ではそれ以外の人を対象とした雇用(非貿易部門(地域固有、地産地消型のサービス業)に対するニーズも高まる。アメリカでは、すべての雇用の2/3が非貿易部門で、シリコンバレーでさえ、ハイテク産業に勤務している人より、地元のお店で働いている人の方が多い。

・街の大卒者の人口が10%増えると、高卒者の給料は7%上昇する

・メールやケータイ、ネットの普及は「場所の制約を無くす」ことができると思われていたが、実際にはコロケーションの重要性はが増した。それはイノベーションの重要性の増加量がテクノロジーの場所の制約の減少量を上回ったから(今後テクノロジーがいっそう制約を減らせば逆転するだろう)。

ところで「シリコンバレー」というのは東京23区の5倍くらいの大きさらしい。この本で語られている「住むところ」というのはそれくらいの範囲を指し語っていることは意識しておいた方がいい。「大田区と目黒区だとこんなに違うんだよ」という話にはならない。

以下、自分用メモ:

教育レベルが高い仲間と交流する人ほど生産的で想像的になる。教育レベルの高い仲間に囲まれているだけで、経済的な恩恵を受けられる(…)ある都市に住む大卒者の数が増えれば、その都市の大卒者の給料が増えるが、さほど大きな伸びではない。それに対し、高卒者の給料の伸びは大卒者の四倍に達する。高校中退者の場合、この数字は五倍だ

教育レベルのたかい働き手がいると、企業が新しい高度なテクノロジーを導入しやすくなる

電話や電子メールは情報を伝達するのに適しており、研究の核となるアイデアを生み出す手段としては最適ではないのだ。新しいアイデアは、議題のない自由な会話から、思いがけずミステリアスに生まれてくる(アカデミズムの人間が大学に誰を採用するかを決めるために多くの時間を割くのは、どういう同僚と一緒に過ごすかによってみずからの生産性が左右されるからでもあるのだ。

聡明な人に囲まれている人は、みずからもいっそう聡明で創造性になり、生産性が高まることが多い。

私の研究によれば、都市にハイテク関連の雇用が1つ創出されると、最終的にその都市の非ハイテク部門で5つの雇用が生まれる。雇用の乗数効果はほとんどの産業で見られるが、それが最も際立っているのがイノベーション産業だ。その効果は製造業の3倍にも達する(…)ある自治体が技能の乏しい人たちのために雇用を創出したければ、皮肉なことに、高い技能の持ち主を雇うハイテク企業を誘致するのが最善の方法だということになる

技術の最先端を走っている企業は、やがて平凡な存在になり、ついには前時代の遺物になっていく。いま好ましい職種も、将来はその座を失うことが避けられない(…)これは資本主義システムが不安定性から逃れられない証拠だと、マルクスは主張した。しかしそれから80年後、オーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは、まったく別の見方を示した。このような創造的破壊のプロセスは、資本主義の欠陥ではなく最大の強みであり、成長のエンジンなのだと指摘した

平均的なアメリカ人が飲食に費やす金は所得の14%、移動・交通に費やす金は17%にすぎない。それ以外では、衣料品が3%、医療が6%、娯楽が5%、教育・通信が6%となっている(この割合は、ほかの国もほとんど変わらない。ただしイタリアは際立った例外で、衣料品に費やす割合がアメリカの2倍に達している。)圧倒的に大きな支出項目は住宅コストだ。平均して全体の40%を占めている。

大学進学より有利な投資を見つけることは難しい。大学進学の年間利回りは、インフレ調整済みで15%以上。これは株式投資(七%)や、債券、金、不動産への投資(いずれも三%)が実際に記録してきた利回りを大きく上回る。

→ ただし、日本では6%を切っているというデータもある

http://www5.cao.go.jp/seikatsu/whitepaper/h17/01_honpen/html/hm03020006.html